こんにちは,大学受験kawaiラボの河井です。すっかり初夏の様相を示してきた今日この頃ですが,体調などお変わりありませんか?季節の変わり目は体調を崩しやすいので,お気をつけ頂きたいところです。私も季節の変わり目は主に気圧の変化によってかなり調子が左右されますので,大過なく過ごせるようにしたいものです。

さて今回は以前書いた「固体の溶解度について」のご好評にあやかって(二番煎じって言わない!),気体の溶解度についてです。高2理系の1学期期末にもよく出る範囲ですし,ちょうどいい頃合いかなと勝手に思っています。

気体の溶解度とヘンリーの法則について

気体の溶媒への溶解について,炭酸水である二酸化炭素の溶解やアンモニア水などはよく知られていますが,水素や酸素もわずかではありますが溶媒(主に水)に溶解します。(そういえば水素水やら酸素水の話もあって言いたいことはいっぱいありますが,今日は割愛) 気体の溶解は熱運動が激しくなると溶媒から出ていこうとするため,いずれの気体でも温度が高くなると溶解度が小さくなるという特徴があります。これは固体の溶解とは違った特徴になります。

溶解度の小さな酸素,窒素,水素などの気体の溶解について,ヘンリーの法則が成り立つことが知られています。ヘンリーの法則とは

ヘンリーの法則
① 温度と溶媒の量が一定のとき,溶媒に溶ける気体の物質量はその気体の分圧に比例する。
② 温度と溶媒の量が一定のとき,溶媒に溶ける気体の体積はその気体の分圧によらず一定である。(ただし,溶かした圧力の条件で測定した場合に限る)

とまとめられるものです。①の物質量=molで表現した場合①と,気体の体積で表現した場合②があるために,どちらを使うの?など混乱が見られる,高校化学でも手を焼くところであります。①についてはより強くその気体を押し込んだらたくさん溶けそうだね,という理解がしてもらえそうですが,②については「え?分圧2倍で体積2倍にならないの?」と思われるかもしれません。

(a) 標準状態(0 ºC, 1.0×105 Pa)で1 mol = 22.4 Lを利用する
(b) 気体の状態方程式 pV=nRT を利用する

の2つが挙げられます。この2つの使い分けですが,標準状態換算のデータをもっているときで,答えるのがmolかgか標準状態での体積であれば(a)が有効ですが,測定条件が標準状態以外が含まれているならば(b)の方が便利かと思います。具体的な使い方は例題を見ていきましょう。

<補足> きちんとヘンリーの法則を理論化学で証明するためには理想希薄溶液の熱力学(化学ポテンシャルを用いた議論)が必要なのですが,高校範囲をはるかに超えるため,興味のある人はこちらのリンクから辿っていってください。

ヘンリーの法則の基本問題

では,本当に基本の「き」の問題から見ていきましょう。素直に

例題1) 0 ºCで酸素の圧力を2.5×105 Paにした。このとき,水3.0 Lに溶ける酸素は何gか求めよ。ただし,酸素は0 ºC, 1.0×105 Paで水1.0 Lに0.049 L溶けるものとし,酸素の原子量を16とする。

解答1) このように標準状態の溶解度とmolの換算だけで考えるなら,(1)の換算法が有効です。0 ºC, 1.0×105 Paで水1.0 Lに酸素が\(x\) mol溶けるとして,
$$1.0 : 22.4 = x : 0.049$$
より\(x=\frac{0.049}{22.4}\)molと求められます。酸素の圧力が1.0×105 Paの2.5倍,水が3.0 Lなので溶解する酸素は\(\frac{0.049}{22.4}\times2.5\times3.0\)mol,従ってその質量は\(\frac{0.049}{22.4}\times2.5\times3.0\times32=0.525 ≒ 0.53\)gと求められます。

今度は標準状態でないので,(1)の換算が使えないタイプです。

例題2) 27 ºCで酸素の圧力を2.5×105 Paにした。このとき,水3.0 Lに溶ける酸素はその条件のもとで何Lか求めよ。また,標準状態の下での体積と溶解した酸素の質量も求めよ。ただし,酸素は27 ºC, 1.0×105 Paで水1.0 Lに0.030 L溶けるものとする。

解答2) 今度は溶解度の測定条件が標準状態と違うので,(2)の気体の状態方程式による換算をしていきましょう。pV=nRTより $$1.0 \times 10^5 \times0.030 = nR \times 300$$ なので \(n= \frac{0.030\times 10^5}{300R}\) molと換算されます。酸素の圧力が1.0×105 Paの2.5倍,水が3.0 Lなので溶解する酸素は\(\frac{0.030\times 10^5}{300R}\times2.5\times3.0\)molとなります。

溶解した条件での体積をV1 Lとすると,pV=nRTより $$2.5 \times 10^5 \times V_1 = \frac{0.030 \times 10^5}{300R} \times 2.5 \times 3.0 \times R \times 300$$ よりV1 = 0.090 Lと求められます(①的には圧力の項は関係なく,水の体積のみに比例していますね)。また,標準状態での体積をV2 Lとすると,pV=nRTより $$1.0 \times 10^5 \times V_2 = \frac{0.030 \times 10^5}{300R} \times 2.5 \times 3.0 \times R \times 273$$ よりV2 = 0.20475 ≒ 0.20 Lと求めることができます。さらに酸素の質量は\(\frac{0.030\times 10^5}{300\times 8.3\times 10^3}\times2.5\times3.0\times 32=0.289\cdots≒0.29\) gと求められます。この計算の場合,気体定数Rは約分できることも多いのでなるべく計算せず,やむなく計算するぐらいがちょうどいいですね。

混合気体の溶解について

今度は混合気体の場合について簡単なケースを説明しておきましょう。

例題3) 窒素と酸素の体積比が4:1の空気が50 ºC, 1.0×105 Paで水に接しているとき,この水に溶けている窒素と酸素の質量比を酸素を1.0として求めよ。ただし,窒素と酸素は50 ºC, 1.0×105 Paで水1.0 Lにそれぞれ0.011 L, 0.021 L(標準状態換算)溶けるものとし,窒素と酸素の原子量をそれぞれ14と16とする。

解答3) 今回は標準状態換算で溶解度が与えられていること,質量を考えることから(1)で換算する方法を採用します。(なお,(2)で換算しても同じ答えが出ます。)水が何Lであっても比は変わらないので,感嘆のために1.0 Lとして考えましょう。

(1)の換算法により,窒素の溶解度は\(\frac{0.011}{22.4}\)mol,酸素の溶解度は\(\frac{0.021}{22.4}\)molと換算できます。ここで窒素と酸素の体積比が4:1であることから窒素と酸素の分圧の比も4:1であり,窒素と酸素の分圧をそれぞれpN2, pO2とすると,pN2=\(1.0\times10^5\times\frac{4}{5}=\frac{4}{5}\times 10^5\)Pa, pO2=\(1.0\times10^5\times\frac{1}{5}=\frac{1}{5}\times 10^5\)Paとできます。窒素の溶解量はpN2が\(\frac{4}{5}\)倍となっているので\(\frac{0.011}{22.4}\times\frac{4}{5}\)mol,従って質量は\(\frac{4}{5}\)倍となっているので\(\frac{0.011}{22.4}\times\frac{4}{5}\times28\)gです。また,酸素の溶解量はpO2が\(\frac{1}{5}\)倍となっているので\(\frac{0.021}{22.4}\times\frac{1}{5}\)molであり,その質量は\(\frac{0.021}{22.4}\times\frac{1}{5}\times32\)gとなりますから,その比は
$$\frac{0.011}{22.4}\times\frac{4}{5}\times28 : \frac{0.021}{22.4}\times\frac{1}{5}\times32 = \frac{0.011\times 4\times 28}{0.021\times 32}:1=1:1.83\cdots≒1:1.8$$と求められます。

気体と溶媒を封入して温度を変える問題

最後に難関,気体と溶媒を封入した問題について扱います。

例題4) 二酸化炭素は27 ºC, 1.0×105 Paで水1.0 Lに4.5×10–2 mol溶解する。ピストン付き容器に水10 Lと二酸化炭素を封入し,気体の体積を20 Lとしたところ,容器内の圧力は3.0×105 Paとなった。二酸化炭素はヘンリーの法則に従うとして,次の問いに答えよ。
A. 容器内に封入された二酸化炭素の物質量を求めよ。
B. ピストンを動かして気体の体積を10Lに圧縮したときの容器内の圧力を求めよ。

解答4) A. まず気体と溶解している二酸化炭素は別々に求める必要があります。気体部分はpV=nRTにより $$ 3.0\times 10^5 \times 20=n_気 \times 8.3 \times 10^3 \times 300$$により\(n_気 = 2.409\cdots ≒2.41 \)molと求められます(途中計算なので,有効数字を1桁多く取る!)。一方で溶解している二酸化炭素はヘンリーの法則に従うことから,$$ n_溶=4.5\times10^{–2}\times 3.0 \times 10=1.35$$molと求められます。全体の二酸化炭素の量は$$n_気+n_溶=2.41+1.35 =3.76≒3.8$$molと解ります。

B. 圧縮することにより,気体と溶解部分の組成が変わりますので,$$n_気+n_溶=3.76$$が成り立ちます。容器内の圧力を\(x \times 10^5\)Paとおくと,気体部分についてはpV=nRTにより $$ x \times 10^5 \times 10=n_気 \times 8.3 \times 10^3 \times 300$$ が成り立ちます。また,溶解部分については溶解度が\(x\)倍になることから,$$n_溶=4.5\times10^{–2}\times x \times 10$$が成り立ちます。これを\(n_気\)と\(n_溶\)について解くと\(n_気=\frac{10x}{24.9}0.4016\cdots x≒0.402x\),\(n_溶=0.45x\)となります。これらを\(n_気+n_溶=3.76\)に代入すると$$0.402x + 0.45x = 3.76$$これを解くと\(x=4.41\cdots ≒4.4\)となり,容器内の圧力は4.4×105 Paとわかります。

 

以上,気体の溶解度の問題のよくあるバリエーションから使い方がまとまるようにチョイスしてお届けしました。問題作りながら計算して書いているので,間違いなどあればお知らせくださいませ。また,もっと色々練習をみてほしい!ということがありましたら,https://kawai-lab.co.jp/contact.htmlにお問い合わせくださいませ。