こんにちは,大学受験kawaiラボの河井です。塾という仕事をしていると,いろいろな計算に出くわし,またみんながどういうふうにやっているのかをを見る機会が多いです。「それいいね!」と唸る計算方法もあれば,「それキツくね…?」と感じる計算まで。今日はちょっと計算について少々お話ししようかと思います。今日問題にしてみるのは連立方程式。

中2の連立方程式のお話

こんな連立方程式を解いてみましょう。なんてこともない普通の連立方程式です。(ちょっと数字が大きいですが割り切れる数字にしたかったので…。)

\begin{cases}
7x+5y=17\ \ \ \ \ \cdots ①\\
5x+7y=19\ \ \ \ \ \cdots ②
\end{cases}

多くの人が

\begin{align}
①\times 7\ \ \ \ \ \ \ \ 49x+35y&=119\\
②\times 5\ \ \ -)\ \ 25x+35y&=95\\
\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }\\
24x&=24\\
x&=1\ \ \ \to ①\\
7\times 1+5y&=17\\
5y&=10\\
y&=2\\
\end{align}

のように解くのではないでしょうか?今回,数値もそれほど面倒でない(ようにつくったつもり)ですからまぁいいような気がします。でもちょっと数字を変えたらどうでしょう?

\begin{cases}
7x+5y=2\ \ \ \ \ \cdots ①\\
5x+7y=3\ \ \ \ \ \cdots ②
\end{cases}

さっきと全く同じように解いてみましょう。

\begin{align}
①\times 7\ \ \ \ \ \ \ \ 49x+35y&=14\\
②\times 5\ \ \ -)\ \ 25x+35y&=15\\
\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }\\
24x&=-1\\
x&=-\frac{1}{24}\ \ \ \to ①\\
7\times \left( -\frac{1}{24} \right)+5y&=2\\
5y&=\frac{55}{24}\\
y&=\frac{11}{24}\\
\end{align}

結構面倒くさくなってきました。もうちょっと楽をしたい,というのは人間の本能ですよね。これを改善するには前半でxを求めるのに使った消去法をもう1度やればいいのです。

\begin{align}
②\times 7\ \ \ \ \ \ \ \ 35x+49y&=21\\
①\times 5\ \ \ -)\ \ 35x+25y&=10\\
\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }\\
24y&=11\\
y&=\frac{11}{24}
\end{align}

随分と楽になりましたね。でもこの解き方にいく中学生は見かけません。高校生でもそうです。不思議な気がしませんか?

これ,昔気になって調べたのですが,中学生向けのワークはことごとく最初の方法,つまり消去法の後は代入法で解いているんですよね。だから,(著者の意図はないけど)刷り込みによって消去法の後は代入しなければならないになっていたりするわけです。誰もそんなことを言ったことはないのにも関わらず,です。でも,これに僕が気づいたのは30歳ぐらいになってからですから,しょうがないと言えばしょうがない気がもします。

だから高校生のこういう問題に苦しんでしまう

a, bはいずれも0でない定数でかつa2b2≠0として次の連立方程式を考えてください。構造的には先ほどの問題と同じですが,高校生らしく文字定数が2つもいます(だからさっきの問題もxyの係数を入れ子にしたのです)。

\begin{cases}
ax+by=2\ \ \ \ \ \cdots ①\\
bx+ay=3\ \ \ \ \ \cdots ②
\end{cases}

これを先ほどと同じように解いてみましょう。

\begin{align}
①\times a\ \ \ \ \ \ \ \ a^2x+aby&=2a\\
②\times b\ \ \ -)\ \ b^2x+aby&=3b\\
\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }\\
(a^2-b^2)x&=2a-3b\\
x&=\frac{2a-3b}{a^2-b^2}\ \ \ \to ①\\
a\times \left( \frac{2a-3b}{a^2-b^2} \right)+by&=2\\
by&=\frac{2a^2-2b^2}{a^2-b^2}-\frac{2a^2-3ab}{a^2-b^2}=\frac{3ab-2b^2}{a^2-b^2}\\
y&=\frac{3a-2b}{a^2-b^2}\\
\end{align}

かなり大変になりましたね…。この後半をさっきと同じ仕掛けで解いてあげると

\begin{align}
①\times b\ \ \ \ \ \ \ \ abx+b^2y&=2b\\
②\times a\ \ \ -)\ \ abx+a^2y&=3a\\
\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&\overline{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }\\
(b^2-a^2)y&=2b-3a\\
y&=\frac{3a-2b}{a^2-b^2}
\end{align}

とずいぶん楽になりました。消去法2回という計算の選択肢を加えるだけでこれだけ楽になります。もうちょっと数学らしいことを言うと,消去法の操作①×a-②×bで作った式と①または②の組は元の①と②の組と数学的に同じ意味(同値という)です。連立方程式は同じ意味になる式の組へと変形していき,最終的に数学的に同じ意味であるxの値とyの値の組に持ち込むことが連立方程式を解く,という作業になるわけです。

最後に数IIの軌跡の問題でも

せっかくなので数IIの2直線の交点の軌跡の問題も考えてみましょう。

mが全ての実数で変化するとき,以下の2直線の交点Pの軌跡を求めよ。
\begin{cases}
mx-y=2m\ \ \ \ \ \cdots ①\\
x+my=-2\ \ \ \ \ \cdots ②
\end{cases}

これを前問のようにまず連立方程式を解こう!というスタンスで計算すると,$$\left( \frac{2(m^2-1)}{m^2+1}, \ \frac{-4m}{m^2+1} \right)$$という交点Pの座標が求められます。そこで,$$x= \frac{2(m^2-1)}{m^2+1}, \ y=\frac{-4m}{m^2+1} $$として(x, yでおかないべき論は今日は棚上げしてください。)xyの関係式をつくろう!→mの消去となるのがとても素直なアプローチでしょう。

そこで先ほどの消去法の操作で作った式,そして解はもとの式と同じ意味をもつことを思い出してもらうと,最初の2式からx=, y=の形に直すことなく,最初からmを消去してもいいじゃないか!ということに気づくことができます。そうすると②式からy≠0の場合に$$m=\frac{-x-2}{y}$$と変形して,①式への代入により

\begin{align}
\frac{-x-2}{y}x-y=2\frac{-x-2}{y}\\
-x^2-2x-y^2=-2x-4\\
x^2+y^2=4
\end{align}

と求めることができます。ただし,この段階ではy≠0です。y=0のときは②が成立するのでx=-2,つまり(-2, 0)の点は軌跡に含めることができ,その結果除外点は(2, 0)となることがわかります。

この計算はx=, y=の形からももちろんできる(同値なんだから当然と言えば当然)のですが,取っ付きにくさが緩和されるのではないかと思います。

最後に工夫するきっかけのお話

計算の工夫をしよう,とか省力化しよう,というきっかけはなんでしょうか?勉強ごとでこの言葉を使うと嫌う人が多いのですが,実は「面倒臭い」とか「ダルい」という思いです。そういう気持ちに蓋をしてしまっている人の方が大変な計算に突き進んで苦労しているのではないか…?という気もしています。そういった心の声に対して跳ね除けるだけでなく,工夫するチャンスと見て目の前の問題の処理の改善に向かうきっかけになればと思います。